レオロジー(Rheology)とは、物質の流動と変形を取り扱う近代科学の一分野です。対象とする物質は問わず、弾性論、塑性論、流体力学等で取り扱うには複雑すぎる物質や、現象が研究対象になります。レオロジーの目的は、物質の複雑な力学挙動を分子論的、構造論的に解明すること、及びそれらの成果を工業に応用し技術の革新や、製品の性能の向上に役立てることです。工業材料のレオロジー挙動が、実際の作業工程において重要な役割を演じることは多く、プラスチック、繊維、ゴム、パルプ、油脂、接着剤、セラミック、薬品、金属材料など、レオロジーが関与する工業分野は広がっております。最近では、自動車、電気、航空機工業などの材料のユーザーや、石油、石炭の採掘関係などにおいても、レオロジーの役割が大きく重要になってきています。
一般社団法人日本レオロジー学会 第 26期 会長
井上 正志( いのうえ ただし ) 大阪大学
令和5年(2023 年) 5 月
このたび、一般社団法人日本レオロジー学会の第
26 期会長を仰せつかり、誠に光栄に存じます。大変な重責ですが、会員の皆様方のご支援のもと、学会の発展を目指し、全力で務める所存ですので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
日本レオロジー学会は1973年1月1日に創立され、ちょうど50周年を迎えたところです。学会の創立にご尽力され、またその後の発展に多大なる貢献をいただいた、数多くの先輩各位、ならびに現学会員の皆様に深く感謝申し上げます。本会の目的は、「レオロジーに関する学理及びその応用についての研究発表、知識の交換、会員相互及び内外の関連学会との連携協力等を行うことにより、レオロジーの進歩普及を図り、もってわが国の学術の発展に寄与する」ことと定款に記されております。しかしながら、レオロジー学会のみならず学協会をとりまく社会情勢は、年々、厳しくなっております。過去3年間は、新型コロナウィルス感染症(Covid-19)のために、学会運営が制限されました。最近では、生成型AIが登場し、幅広い知識がインターネットを介して供給されつつあり、情報の質がとわれています。また、人の輪もSNSで作るような時代になっています。時代にあったより効率的な手段を利用しつつ、本会の目的を追求していきたいと考えています。
レオロジーは流れに関する科学ですが、流体力学が単純な物質の複雑な流れを対象とするのに対し、レオロジーでは単純な流れを用いて、複雑な物質を対象とします。中学生の化学で純物質の三態として、気体、液体、固体(結晶)を習いますが、我々の身の周りの物質は、必ずしも、この3態に明確に分類することはできません。ガラス、ゴム、液晶はこうした例であり、さらに多くの場合、混合物となり、液体と固体の知識では不十分です。食品、化粧品、医薬品などを扱うあらゆる工業分野では、「どのように流れるか、変形するか」というレオロジーの知識は、安定性、使用感をふくむ製品の性能の制御に直結するものです。持続可能な社会の実現のためには、既存の製品を低環境負荷にすることが不可欠になっています。変わりゆく社会的なニーズに対応できる知識と技術を、研究会、講習会等を通じて提供してきたいと思います。
レオロジーでは、よく「XX(の)レオロジー」といった言い方をします。「分散系のレオロジー」とか、「食品レオロジー」といった表現です。この理由は、物質の内部構造が変われば、レオロジー応答がまったく異なってしまうためです。このため、内部構造のちがいを反映した多彩なレオロジー現象が観測され、物質によっては非常に特異的な挙動を発見できるチャンスがありますが、一方で、物質によらない普遍性や法則を見つけることはむずかしく、学問としての体系化の妨げとなります。こうした特徴が、初学者がレオロジーを学ぶ上での障害にもなります。計算機実験やAIの利用は、こうしたレオロジーの課題を解決する上で有用な手法で、今後さらなる発展が見込まれますが、さまざま物質のレオロジーを広く知ることもまだまだ重要で、研究者が一堂に会して議論し情報を共有する機会が不可欠です。こうした人とレオロジーのつながりの機会を提供し、質の高い情報を共有することが、学会の目的でありますので、引き続き学会行事にご参加賜りますようお願いします。また、学会員でない皆様におかれましても、レオロジー学会の趣旨をご理解いただいて、是非学会行事にご参加いただき、レオロジーについての知識を深めていただきたく存じます。
以上、日本レオロジー学会の目的と伝統を継承し、運営の効率化、質の高い会員サービスと人材育成を目標に、皆様と一緒に学会の運営に当たって参りますので、ご支援ご指導のほどどうぞよろしくお願い申し上げます。
一般社団法人日本レオロジー学会 第26期役員名簿
任期: 令和5年(2023 年) 5 月 ~ 令和7年(2025 年) 5 月
役職 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
会長 | 井上 正志 | 大阪大学 |
副会長 | 浦山 健治 | 京都大学 |
副会長 | 鈴木 洋 | 神戸大学 |
理事 | 新井 武彦 | 英弘精機株式会社 |
理事 | 井賀 充香 | 日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社 |
理事 | 猪股 克弘 | 名古屋工業大学 |
理事 | 酒井 崇匡 | 東京大学 |
理事 | 高橋 勉 | 長岡技術科学大学 |
理事 | 田中 敬二 | 九州大学 |
理事 | 田村 英子 | 花王株式会社 |
理事 | 中村 浩 | 株式会社豊田中央研究所 |
理事 | 新田 晃平 | 金沢大学 |
理事 | 堀中 順一 | 京都大学 |
理事 | 増渕 雄一 | 名古屋大学 |
理事 | 山本 剛宏 | 大阪電気通信大学 |
監事 | 酒井 啓司 | 東京大学 |
監事 | 徳満 勝久 | 滋賀県立大学 |
正社員 | 555名 |
---|---|
学生会員 | 19名 |
公共会員 | 1件 |
賛助会員 | 44事業所45口 |
レオロジー関係の総説、原著論文、解説記事、会告には学会活動のお知らせなどを掲載しています。
研究発表のほか、学会賞等受賞講演、同時に年次総会を行います。
レオロジー関係では国際的にもよく知られた国内最大の研究集会です。
レオロジーの基礎と測定法に関する初級講座で、1981年開講以来毎回約100名の受講者があり、工業技術者のレオロジー入門コースとして極めて高い評価を得ています。
「レオロジー講座・基礎編」、「食品レオロジー講習会」、「レオロジー・イブニングセミナー」を開催しております。
1983年、1984年、1988年、1996年、及び2002年には国際シンポジウム、1991年には日中レオロジー会議、1994年には第1回太平洋レオロジー会議、2010年には第5回太平洋レオロジー会議を主催しました。2016年にはレオロジー国際会議(ICR2016)を主催しました。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
■ 受賞写真
渡辺 宏 元会長が米国レオロジー学会Binghamメダルを受賞しました。
土井 正男 元会長が(2001年Bingham Medalists)Fellowship Awardを受賞しました。