47巻3号(2019年6月14日)発行分から掲載しております。
pp.65-78 【英文タイトル】Dissipation
in Langevin Equation and Construction of Mobility Tensor from Dissipative Heat
Flow
【論文タイトル】「Langevin方程式の散逸と散逸熱流からの易動度テンソルの構成」
【著者名】畝山 多加志
【論文の要旨】物質のレオロジー的性質はエネルギー散逸と強く関係しており,それゆえ散逸を理解しモデル化することはレオロジーの観点からも重要であると言える.メソ・マクロスケールの対象のレオロジー的性質を調べる際には散逸をともなう運動方程式モデルの構築が重要である.そのような運動方程式を構築する方法はいくつかあるものの(Onsagerの方法等),正当性は十分に保証されないことが多い.本論文ではメソスケールのLangevin方程式の散逸についてゆらぎのエネルギー論の観点から詳細に解析する.熱浴から系へ移動する散逸熱流は特定の変数変換によって形が変わらず共変であり,散逸熱流に基づいてLangevin方程式を構築したり粗視化を行ったりすることが可能であることを示す.具体的には,易動度テンソルを散逸熱流から求め,自由エネルギーと組み合わせることでLangevin方程式を構築する.例として,ダンベルモデルや濃度場の拡散型方程式に対して提案手法が適用できることを示す.
pp.91-99【英文タイトル】Dynamic
Moduli Mapping of Rubber Blends by Nanorheological Atomic Force Microscopy
【論文タイトル】「ナノレオロジー原子間力顕微鏡によるゴムブレンドの動的弾性率マッピング」
【著者名】植田 英順,中嶋 健
【論文の要旨】ポリマー間の相溶性が物性に与える影響を調べるために著者らが開発したナノレオロジー原子間力顕微鏡を利用した.試料としてはスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムのブレンドを対象とした.これらの試料は部分相溶状態にあるが,STEMや従来のAFMでは単に非相溶な海島構造にしか見えない.しかし高周波数帯域で貯蔵弾性率,損失弾性率,損失正接などをマッピングできる本手法を用いることで新たな情報が得られた.SBRリッチ相はDSCによるガラス転移温度の変化からも純粋なSBRとは異なることがわかっており,測定した全ての周波数域で粘弾性情報にも違いが見られた.一方,BRリッチ相はDSCではその相溶性を検出できなかったが,動的不均一性と呼ぶべき現象を確認した.すなわち低周波数域ではBRリッチ相はほとんど純BRと同等の物性を示すが,SBRがガラス化する周波数域から上の周波数ではBRリッチ相の貯蔵弾性率,損失弾性率が純粋なBRのものに比べ高くなっていた.
pp.101-107 【英文タイトル】Toughening Effect of Clay
Particles on Poly(Lactic Acid)/Natural Rubber Blend
【論文タイトル】「ポリ乳酸と天然ゴムのブレンドにおけるクレイ粒子のタフ化効果」
【著者名】Jung Hyun AHN, Joung Sook HONG, Kyung Hyun AHN
【論文の要旨】 本研究ではポリ乳酸(PLA)と天然ゴム(NR)のブレンドのタフ化におけるクレイの効果を調べた.PLAとNRは70/30,60/40,50/50の比率で混合し,クレイとしてはオルガノクレイとモンモリロナイトを用いた.ブレンド物の線形粘弾性測定とモルフォロジー観察を行った.NRの混合比率が増えるにつれてNRドメインの粗大化が見られ,モルフォロジーが海島構造から共連続構造に変化した.モルフォロジーの変化にともなって引張強度と破断伸度も変化した.またクレイの添加もモルフォロジーに影響した.特にクレイの局在化が影響した.PLAに局在するモンモリロナイトはNR相の粗大化に寄与する一方,オルガノクレイは界面に局在してNR相の分散に寄与した.この結果,海島構造をとる場合は,0.5wt%のオルガノクレイの添加によって破断伸度が60%向上した.一方,共連続構造の場合はクレイの種類によらず破断伸度の増加が見られた.(日本語訳 増渕雄一)
【論文タイトル】「寒天ミクロゲルで油分の一部が置換された低油分マヨネーズのレオロジー特性」
【著者名】金田 勇, 柴田 章吾
【論文の要旨】油分の一部を寒天マイクロゲルに置き換えた低カロリーのマヨネーズプロトタイプを構築した. 5 s-1での通常マヨネーズ(F-mayo)の見かけ粘度は36.0
Pa×sであったが, 油分を半減させると(H-mayo)その値は1.75 Pa×sに急激に減少した. しかし,オイルの半量を寒天ミクロゲルで置換したマヨネーズ(A-mayo)の粘度は38.2 Pa×sと通常マヨネーズと同程度に回復した. さらに,weak-gel
modelで動的弾性率を分析することにより, マヨネーズのコロイドレベルの構造に関する情報を得た. 系内のコロイド粒子の空間密度に関連する配位数zはF-mayoでは13.9であったが, H-mayoの値6.54とF-mayoのほぼ半分だった. このようにzの値と油分配合量の間に高い相関があることからzはモデルマヨネーズ内のコロイドレベルの構造に関する情報を提示していると考えられる. 一方で A-mayoのz値は11.7と同じ油分量のH-mayoに対して大幅に改善された. これらの結果から, 寒天マイクロゲルを配合したは低油分マヨネーズは通常マヨネーズに類似した流動特性, すなわちテクスチャーを示すことが示唆された.
【論文タイトル】「フロックの凝集・破壊のポピュレーションバランス方程式とWhite-Metznerモデルを組み合わせたフロック形成サスペンションのモデリング」
【著者名】山本 剛宏
【論文の要旨】著者らの過去のモデルに基づいて,流動中のフロックの凝集と破壊を考慮したフロック形成サスペンションの粘弾性モデルを開発した.本モデルでは,フロックの凝集と破壊を模擬するためにポピュレーションバランス方程式を用いた.過去のモデルと同様に,粘度のフロック体積分率依存性をKrieger-Doughertyモデルで記述し,粘弾性の効果を表現するためにWhite-Metznerモデルを用いた.さらに,有効体積分率に依存する弾性係数関数を用いて緩和時間のフロック体積分率依存性を取り入れた.単純せん断スタートアップ流れのシミュレーションを行い,本モデルのレオロジー挙動を調べ,シミュレーション結果より,フロックサイズ分布の時間変化は弾性係数に大きく依存することが分かった.そして,スタートアップ流れ開始直後の第1法線法力差の挙動に弾性係数による違いが現れた.本モデルは,粘度と緩和時間のフロックサイズ分布依存性を表現するフロック形成サスペンションの簡単な粘弾性構成モデルとなり得る.
pp. 129-135【英文タイトル】Flow-induced
Orientation of a Polymer Solution in a Planar Channel with Abrupt Contraction
and Expansion
【論文タイトル】「平面急縮小・急拡大流れにおける高分子水溶液の流動誘起配向」
【著者名】佐藤 大祐,鳴海 敬倫,牛田 晃臣
【論文の要旨】本研究では,平面急縮小・急拡大流れにおけるキサンタンガム水溶液(濃度0.5 wt.%)の流動誘起配向を流動複屈折測定および速度分布計測によって調べた.試験流路としてスリット長が1 mm,2 mm,3 mmおよび10 mmの4種類の4:1:4の平面急縮小・急拡大流路を用いた.流路中心線上における複屈折分布および速度分布を詳細に検討したところ,急拡大後における高分子の流動配向の変化は,流路のスリット長によって大きく異なることが明らかになった.スリット長が3 mmと10 mmの場合,拡大部後に生じる負の伸長流れによって,一時的に高分子は流れ方向に対して直交方向に配向した.対照的に,1 mmおよび2 mmのスリット長では,同様の配向現象は観測されなかった.これらの結果は,平面急拡大流れにおける高分子の流動誘起配向が縮小部と拡大部を繋ぐスリットの長さに大きく影響することを示唆する.
pp.1-14【英文タイトル】A Review on Transport Phenomena of Entangled Polymeric Liquids
【論文タイトル】「からみあい状態にある高分子流体の移動現象論」
【著者名】佐藤 健
【論文の要旨】化学工学において,物理量の移動を扱う学問分野を移動現象論と呼ぶ.この分野では,対象とする現象を特徴付ける物理量の流束の保存則によって支配方程式が導かれる.例えば流体の移動現象においては,運動量の保存方程式から運動方程式が導かれる.この運動方程式を解くためには,流体の変形と応力を結びつける構成方程式が必要となる.構成方程式が単純な関係で記述できるニュートン流体の移動現象の問題の場合,その方法論は確立されている.一方で,粘弾性流体である「からみあい状態にある高分子流体」の場合,その構成方程式は,単純な関係として記述できない.これは,高分子が時空間的に高い階層構造を持つことに由来する.本総説では,高分子流体の移動現象論に焦点を当て,高分子の階層構造に由来する様々な時空間スケールにおける理論・シミュレーション法をまとめる.さらに,各スケールを連結するマルチスケールシミュレーション法について,最新の研究を紹介する.
【論文タイトル】「界面活性剤とナノ粒子を含む空気-水界面の非線形粘弾性挙動」
【著者名】Badri VISHAL, Pallab GHOSH
【論文の要旨】泡は我々の日常生活の中で広く利用されている.泡の安定性は,2つの空気―水界面に挟まれた水相薄膜の安定性に依存する.また,そのプロセッシングにおいて泡の膜は大変形を受ける.そのため,空気―水界面の大振幅振動ずり(LAOS)流動による研究は,泡の安定性を研究する上で非常に重要である.本論文では,LAOS下での空気―水界面の粘弾性挙動を詳しく調べた.界面は,濃度0.1 mol m-3の臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム水溶液と0.5% w/vのシリカナノ粒子により構成した.LAOS挙動は,ひずみサイクル内での応力波形とLissajous-Bowditch曲線を解析することで評価した.また,フーリエ変換とChebyshev多項式を用いた界面のLAOS流動の記述を行った.空気―水界面は,LAOS流動下で,ひずみ硬化とずり増粘挙動を示した.一方,非常にひずみ振幅が大きい場合には(45%程度),ずり減粘挙動が観察された.(日本語訳: 浦川 理)
【論文タイトル】「可逆な片端吸脱着を示す A型ラウズ鎖の誘電緩和」
【著者名】赵 鑫阳, 俞 炜, 松宮 由実, 渡辺 宏, 権 永敦
【論文の要旨】ナノコンポジット中の吸着高分子鎖のダイナミクスを調べる糸口として,A 型双極子を持ち,片端にて平衡吸脱着を示すラウズ鎖の誘電緩和の理論解析を行った.この鎖のボンドベクトルをラウズ固有関数で展開することで,複素誘電率と誘電緩和時間の解析的表現が得られた.吸着状態の鎖と脱着状態の鎖は相互のコンフォーメーションの輸送を通じて動的にカップルしているため,吸着鎖の誘電緩和はこのカップリングがない場合に比べて加速され,脱着鎖の誘電緩和は減速されることが見出された.
【論文タイトル】「プリミティブチェーンネットワークシミュレーションにおける高分子のからみあい運動に対する束縛解放の効果」
【著者名】増渕 雄一
【論文の要旨】からみあった高分子の運動では,レプテーションと全長揺らぎに加えて,束縛解放(CR)が重要な緩和機構である.しかしCRの性質は完全には明らかになっていない.本研究ではCRを人為的に停止させた環境での分子運動をプリミティブチェーンネットワークシミュレーションで調べた.粘弾性緩和時間,末端間ベクトル緩和時間,拡散定数,平坦部弾性率の分子量依存性を調べ,それらにおけるCRの効果を見た.結果は文献中の実験的な結果と妥当に一致した.CRがある通常のメルトと比較したところ,緩和時間と拡散定数にはCRによる分子運動の加速が見られた.このCRによる加速は分子量が大きくなるほど小さくなった.CRによる加速の分子量依存性により,緩和時間の分子量に対するべき指数がCRに影響される.一方,平坦部弾性率は,分子量依存性も含め,CRに影響されなかった.これらの結果は時間-応力不一致とよばれる,緩和時間と弾性率の理論からのずれを説明する.
pp. 43-48【英文タイトル】Simulations of Startup Planar Elongation of an Entangled Polymer Melt
【論文タイトル】 「平面伸長流動下での高分子溶融体の過渡伸長粘度シミュレーション」
【著者名】武田 敬子,増渕 雄一,杉本 昌隆,小山 清人,サティシュ スクマラン
【論文の要旨】単分散からみ合い高分子溶融体について平面伸長流動下でプリミティブチェインネットワークシミュレーションによる過渡伸長粘度予測を行った.第一平面伸長粘度は,一軸伸長粘度と同様に,ラウス緩和時間に基づくワイゼンベルグ数(WiR)1以上でひずみ硬化を示した.この計算結果をデカップリング解析することにより,配向と伸長などの応力への寄与にわけて議論した.この結果,平面伸長では一軸伸長と比べて分子鎖は低い配向を示したが,からみ合い数の減少率が低く,それらが相殺しあい一軸と平面の定性的類似をもたらすことを明らかにした.第二平面伸長粘度はせん断の実験結果に似たオーバーシュートを示した.第二平面伸長粘度と配向のひずみ最大値はWiR1以下では同様のWiR依存性を示し,応力は配向に起因することを明らかにした.
【論文タイトル】「会合性高分子網目とからみ合った線状高分子混合水溶液の均質性に関するレオロジー的評価」
【著者名】千葉 高充,片島 拓弥,浦川 理,井上 正志
【論文の要旨】←要旨内の文字が一部表示できませんので、元データのpdfをご覧ください。
【論文タイトル】「ホスト‐ゲストゲルの膨潤挙動および平衡膨潤状態に対するホスト‐ゲスト相互作用の影響」
【英文タイトル】Rheological Evaluation of Carbon Nanotube Redistribution in Polymer Melt
【論文タイトル】「高分子溶融体中におけるカーボンナノチューブ再分配のレオロジー的評価」
in Antiplasticized Polycarbonate
【論文タイトル】「逆可塑化ポリカーボネート中における低分子と高分子鎖の相関運動に対する分子サイズの影響」
【論文タイトル】「エステル結合が無いポリ(エーテル‐ブロック‐アミド)熱可塑性エラストマーの構造と 粘弾性的性質」
【論文の要旨】硬質ポリアミドセグメントと軟質ポリエーテルセグメントからなる一連のエステル結合が無いポリ(エーテル - ブロック - アミド)熱可塑性エラストマーの構造と粘弾性特性を調べた.この研究で使用した全ての熱可塑性エラストマーは,固体状態で結晶ラメラを有する不均一な組織構造を示した.エラストマーの非晶質領域における不均一性および相溶性は試料組成に依存した.溶融状態での試料の動的弾性率には,相分離した液体に特有の明確で遅い緩和機構は観察されなかった.この結果は,ポリアミドとポリエーテルセグメントとの間の良好な相溶性のために,溶融試料が均一な構造を有していたことを示している.